良導絡とは?
故中谷義雄博士は京都大学医学部生理学教室において、ツボと皮膚通電抵抗の関係を研究し、それによって「良導点および反応良導点」を発見しました。さらにそれらが機能的に関連することを見つけ「良導絡」とし、「皮膚通電抵抗と良導絡」と題した論文にまとめ、学位(医学博士)を取得されました(良導絡エッセンス参照)。
今日、「良導絡」と言えば「良導絡治療」をイメージされることも多いのですが、厳密には鍼灸学における”経絡”の科学的一面が”良導絡”と考えられ、良導絡理論の中核に座る現象になっています。
一方、良導絡治療とは、良導絡理論に則って構築されたすべての治療法を指し、正式には「良導絡自律神経調整療法」と呼ばれています。本法は『皮膚通電抵抗を指標として、体表における自律神経(交感神経)系の興奮性を客観的にとらえ、統計学的なデータを基にして全身的、局所的に生じる興奮性(異常=病的)を、いわゆる健康人の興奮性(正常=生理的)に近づけようとする治療法』です。
主な医療行為(手技)は針灸による自律神経調整、しかしその解釈(理解)は現代医学(とくに神経生理学)に基づいておこないます。
このような独創的な『理論体系』と『治療方針』をもつ治療法が、日本において確立されたことから、中国伝統医学(中医学)においても日本的針灸と理解されております。
故 中谷義雄 博士(創始者)より
近代西洋医学は二十世紀に飛躍的な発展を遂げ、世界の医療に大きく貢献しました。しかしながらまだまだ難治の疾患が多く、診断面では著しい進歩を認めておりますが治療面に於いては後れをとっている感があります。良導絡治療は、このような雑治の疾患にもかなりの良い結果を示しております。
私(中谷)は針療法の臨床的優秀性を認め、昭和20年頃より基礎的研究を初め、針の治療点や各種疾患による反応の系統(良導絡)等の研究を進め中国古来の針の経穴(つぼ)及び経絡を科学的に研究し、中国の医学が正しかった事実を確かめ、皮膚通電抵抗の理論より新しい理学療法を開拓してまいりました。これが良導絡治療法であります。
従って良導絡治療法は、東洋医学の針療法を、異なった面から科学的に裏付けると共に、近代医学者にとって最も理解され易い新しい理学療法と考えています。
刺激を与えれば反応が起きますがどこに刺激を与えれば、何処に反応が起こるか、また刺激の強さによって、どのような反応が起こるかと言う研究によって、結論的には自律神経を介して、臓器の機能や血液循環、新陳代謝、組織の抵抗力、自然治癒能力といったものに作用して想像以上の治療効果をあげることが出来ます。
即ち、自律神経調整療法であり、自律神経の機能を認識するならば、如何なる効果が現れるかは誰しも想像理解していただけるものと思います。
近代医学で治る疾患に対しては補助的に、治り難いものには特に有用な療法であります。
良導絡についての見解
「良導絡は経絡のことではないか?」あるいは「良導絡は経絡の証明ではないか?」という質問がある。だが、「これは、よく似ているだけで同じものではない」、すなわち「経絡の形態と現象および良導絡の形態と良導絡の現象(相関関係)が相似的なのである」と答える。
経絡は人が永年の経験から得たものであって、真理を多分にもった哲理であり、その真理に科学的メスを加えたものが良導絡である。すなわち同一のものを哲理的に観察すれば経絡となり、科学的に観察すれば良導絡となる。
「良導絡は経絡の証明に何故ならないか?」というと、完全な証明はできないと答える。なぜなら、経絡・経穴は定義がハッキリしておらず、また仮に定義しても、中に含まれるものの意味がわからないからである。もちろん、それらに解釈はなされているが、どの解釈も推測である。
わかりやすく言えば、経絡の中を「衛栄」が流れるとか、経穴は「神気」の遊行する所であるとすれば、科学的に証明のしようがない。しかし、科学的に究明された良導点とか、圧痛点から「古代人が経穴とはこうしたものであろうとか、経絡とはこうしたものを云っていたのであろう」と推測はできる。したがって、良導絡の研究によって経絡を証明することはできない。しかし経絡および経絡現象が荒唐無稽でないことを推測することができる。
しかし、経絡が荒唐無稽で無いと推測するだけでは、鍼灸の医学は進歩しない。それは、あくまで医学はやはり科学的でなくてはならない。私のモットーは「哲学治療より科学的治療へ」である。私は古典を尊重し、その中に伏在する真理を探求するに便を得たことは事実である。良導絡の研究は基礎的研究より、すでに臨床応用されて良い効果をおさめている。
鍼灸治療の保険問題にしても、政治的だけで解決されるだろうか?、おそらく鍼灸の科学性が問題になってくるだろう。ロに科学をとなえても、科学的治療をおこなっていない人が多い。今は過渡期であって色々の問題も生ずることであろうが、将来の大計をたてるならば、直に科学的に切りかえる必要があるのではなかろうか。
京都大学医学部生理学教室 故 中谷義雄博士より