このたび同門の中谷義雄博士が各方面からの要望に応えて、「良導絡自律神経調整療法」を上梓することになった。中谷君が「皮膚通電抵抗の疾病による変化」という構想を胸中に温めて、京都大学医学部生埋学教室笹川久吾先生の門を敲いたのは昭和27年1月のことである。以来20星霜、その間孜々として学理と臨床に研績を積んで良導点・良導絡の命名から、その部位における通電抵抗値と疾病との関係を系統づけ、此の関係の根本原因は自律神経系のリズムとアンバランスにあることを探りあて、ついで原理に基づいて疾病治療に有効な皮膚部位の探求、該部位における治療法という順に歩を進めて来ている。中谷君の此の研究によって古典伝承的であった東洋医学の治療術式が近代科学の脚光を浴びることになって、斯界の人々によりどころを与えたに止まらず、改めて東洋医術が独立した歩を進めることが出来るようになった。中谷君は長年月にわたる研究の途上、良導絡治療の説明のため、あるいは新しい知見の報告のため数種の書物を出版しているが、良導絡による治療法が一般医家に浸透して広〈用いられるようになり、かつ専門医師による学会も結成され年毎に数多の研究成果が発表されるに及んで、此の治療法に関する中谷博士の決定版ともいうべき書物が大方の人々から強く要望されるようになったのも当然のなりゆきである。中谷君が研究に臨床に寧日のない忙しい時聞をさいて本書を作られたわけも此の強い要求があったからで、良導絡に関するすべてのものを盛り込むことに努力されたため600頁余の大部のものになっている。
本書は次の6章より成り立っている。
第1章では良導絡治療法の概要がのべられていて、新しく此の療法をはじめる人でもこの章をマスターすればまずまずこと足りるものがあり、既に該療法を実用している人にとっては此の章は各自の行っている療法に新しい知識を加えるよすがになり得るものである。第2章は良導絡に関する基礎的な研究事項である。ここをみると、ただ漫然と右へならえ式に治療法を実施しているだけでは不充分で、より有効適切な治療を目ざすために是非知っておくべき事項であることがわかる。第3章は著者の所で長年月実施して来た良導絡治療法をまとめて、治療の実際に当って知得しておくべき事項がのべられている。従って第2章と第3章は良導絡治療法を自家の薬籠中のものとするためには是非必要なものであるといえる。第4章は治療の実際に当って手技の修熟に必要なことを更にこまかく且つ平易に説明するために多数の図表で解説、臨床実習編としてまとめたものである。以上の4つの章で治療方法を知悉し、且つこれを実施し充分に活用し得ることが出来るわけであるが、更に2つの章がつけ加えられている。第5章は著者が出演し視聴率を高めたテレビの後記やその他良導絡に関する記録がおさめられていて、著者の活躍をしのぶことが出来る。第6章は良導絡研究参考編として多くの頁をさいて良導絡に関係のある参考事項をもうらしている。今日のように良導絡治療法が医家に広〈聞いられるようになり、各地に研究会が出来ている現状では此の章が著者の姿勢を示すつまり本書の真骨頂であろうとさえ考えられるものである。本書の頁数に匹敵する多数の図表も特長的なもので読者の理解を高めるのに役立つものである。本書が多くの人々によって実地に活用され、治病に寄与し社会福祉に貢献することを願うものである。
昭和46年7月(京都大学にて)
京都大学教授
医学博士 田村喜弘
明治時代、西洋医学を医療の正統とするために、議会に於て、東洋医学の廃止が議決せられたが、針灸の効果あることは、何人も、これを否定し得ず、そのために、今日まで、針灸専門学校が存続しているのであります。昭和25年、中谷義雄博士は、東洋医学研究中、良導点・良導絡を発見して、良導絡研究所を創設、たまたま、東洋医学の研究が行われていた京都大学医学部生理学教室に於て、笹川久吾教授の下に、「皮膚通電抵抗と良導絡」研究によって、学位を受領せられたので、あります。引つづき、昭和35年には、良導絡学会を創設して、爾来、良導絡診療所を経営し乍ら、休日を利用して、全国の医師会にはたらきかけて、今日まで、300回以上の講習会を開催せられて来たことは、全く、常人の企て及ばざる偉業であります。
今回、中谷義雄博士が、「良導絡自律神経調整療法Jの題名の下に、待望の著書を刊行せられたことは、東洋医学にとっては、もとより、広く日本の医学界の将来のために、最も有益なる著書と確信致します。博士は、この著書に於て、長年の治療経験を基にして、作成せられたカードを利用して、その診療にあて、調整療法の特に適した疾怠として50種類を挙げて居りますが、神経痛に於ける特効に於ては、幾多の初心者も経験する所であります。
色盲患児の色覚向上に就ては、既に国際学校保健学会に於て、二回も報告せられ、又、スポーツ医学の分野に於ても、去る東京オリンピックに於ける体操の小野 喬選手を始め、幾多の治験例が報告せられて居ります。最近、大阪医科大学、ペイン・クリニック・兵頭教授を中心として、各地の病院のペイン・クリニックにも、採用せられて居ります。東南アジア各国にも、徐々に利用せられつつある状態であります。中谷博士は、易学を基礎とする東洋医学の長所に就て研究して、西洋医学の医学思想と比較するなど、両者を極めて21世紀の医学建設に資することは、我々の責務ではないでしょうか?
この意味に於ても、中谷博士の新著の有意義なることを力説したいのであります。中谷博士は、尚春秋に富み、日夜良導絡治療の研究と、実践に努力せられている現状に鑑み、漸次、真剣な同志諸君と結ばれ乍ら、該治療の完成が何日の時にか到来することを祈念して、新著推薦の辞といたします。
昭和46年7月
日本良導給自律神経学会会長
医学博士 野津 謙
中谷博士が今回、20年にわたる良導絡の研究、および体得された治療知見を1冊の本にまとめられた。これは氏の良導絡総決算であるが、同時に後学の士にとって願ってもない入門書であり、かつ辞典でもある。中谷博士は多くの才に恵まれている。独創的な思考力がなければ良導絡は生まれなかったであろうし、また人1倍の実行力と根気がなければ、それを今日ほど広く普及させることもできなかったであろう。さらに万人に尊敬される人がら、加えて庶民的なパーソナリティを持ち合わせなかったら、この島国的日本で多くの人の共感を得ることはできなかったに違いない。
周知のように氏は話術の才にもたけている。えてしてこのような人は文筆を苦手とするものであるが、過去における厖大な論文の数は、学者に要求される筆力も合わせ持っている何よりの証拠である。昭和31年、中谷氏は「皮膚刺激療法jと題する単行本を今回と同じ良導絡研究所から出版された。この本はそれまでの数年間の業績をまとめたものであり、良導絡理論が確立されるに至る研究の集積である。これは同時に、氏の博士論文でもあった。したがって書体は「学問的」であり、臨床の実際についての指導書ではなかった。絶版になって久しいが、実技を習得すれば誰でも基礎理論の詳細を知りたくなる。この本の復刊が期待されていたが、その後の新知見もあり、かつ理論だけでは一般書として弱く懸案になっていた。
このたびの本は、臨床に重点があるとはいえ、かっての本で紹介された基礎理論の要点をより吟味した形で、ほとんど余さず集録している。当然大冊になるが、これだけのボリウムは必要最低限であり、大冊としての価値は十分にある。近年、東洋医学の再認識は世界的な機運にある。ただ、旧式の兵器は、どんなにそれをうまく使いこなしても、新兵器の登場によって破れ去る。古典東洋医学はそれなりの価値があるが、進歩と改良がなされねばやがては滅び去る。過去3000年にわたる古典東洋医宇は、中谷・笹川らによる良導絡理論によって、今や近代科学としての裏づけを持ち、新しい刺激物理療法として現在の医療の一分野に位置づけされた。もちろん、なお検討さるべき問題はあまりにも多く残されている。個人でできる研究範囲は知れている。これからは世界の学者によって錬り直されねばならないが、そのためにも本書は、なくてはならない土台石である。
昭和46年7月20日
大阪医科大学麻酔科教授
医学博士 兵頭正義
昭和25年4月2日に腎炎の患者さんで腎良導絡を発見して以来20年をこえてしまいました。その間、研究と臨床に良導絡だけのことを考えてきました。出来上ってしまえば簡単なことではありますが、研究中は何が出来上るのか、どうすれば良いのか、コロンブスが大洋の中に舟を進めて、これからどうなるのか、はたしてインドが見つかるか、それと同じ気持であったと思います。幸にして現在では臨床的にも非常に役立ち近代医学の盲点をうずめるに足ると自負できるような新しい理学療法にまで発展して参りました。本書の内容は、ほとんど私が研究したものでありますが、針灸の古典を参考にした為に急速な速度で研究が進んだことは、うたがう余地もありません。これは温故知新であり、古いものには案外良いところがあり、新しいものには案外欠点があるという格言も参考にしなければなりません。古医学には哲学があります。針は単なる針にすぎないが如何に矛や盾が進んだものができようとも、針は人を活かす活人の針であり、矛は人を殺す道具である。そこに尊卑、自らきわまると述べています。
人を活かす針の研究ができることは幸福であると思います。昭和19年頃より針灸の勉強を始めたわけですが、その当時は針灸をとり入れて行う医師は、ほとんどおらず、要するに変人だということになります。別に先見の明があったわけではありませんが、唯自分の興味のある道を選んだわけであります。これは復古調といいますか、いつの聞にか東洋医学のブームが起り、ニクソン大統領の中国訪門によって針ブームが、米国や日本を更に刺激して良導絡は日本から、東南アジア、ヨーロyパ、そして米国にまで広がって行くようになりました。これは一重に良導絡自律神総学会や良導絡に好意をよせて下さる諸先輩のひきたてであって、昭和48年5月13日より米国に於て、ワシン卜ン大学に於ける国際ペインシンポジウムに於ける良導絡治療及びその成績の発表(佐藤教授と中谷)その外、カリフォルニア大学麻酔科主催に於ける講演会(佐藤、山下、中谷)、ニュヨーク大学リハビリテーション臨床部門に於ける講演会、及びハワイ、サンフランシスコ、ロスアンゼルス、ダモイ、デトロイド、シカゴ等に於ける医師会の講習会、カナダのバンクーバの講習会等と、昭和48年は米国への進出の年となりました。
この本は昭和46年9月3日に第1版2000冊、出版されて48年2月には、もう数冊を残して売り止となり、今までの誤りを正して、第2版を出版することになりました。良導絡の研究や臨床には;無くてはならない本となり良導絡の大事典の役割をはたすことになります。データーも約5000例のものを唯今カード選別機によって整理されつつあります。新しい研究は学会の雑誌に報告致します。又この本の内容を変えなければならなくなる日が一日も速く来ることを願っております。
昭和1973年6月30日
日本良導絡自律神総学会副会長
日本針灸良導絡医学会名誉会長
中谷義雄
*第二版改定にあたり、良導絡研究所員大塚晋策君に熟読してもらって、誤字・脱字等意味の通じ鰍い点等を改正しました。