良導絡は1950年(昭和25年)、故中谷義雄先生が皮膚通電抵抗を主体とし考案された日本独自の診断・治療法であります。中谷先生は、京都大学医学部生理学教室で人体の皮膚電気抵抗の変化は局所及び内臓疾患の反射と関連のあることを突き止められ、これが、自律神経の興奮性の変化に依拠するものであり、この反応による皮膚の通電抵抗の減弱点に、電気鍼や種々の物理的刺激によって自然良能を高めることを多くの実験で証明し、良導絡理論を確立されたのであります。私は、中谷先生の第一の継承者であった故大礒泰啓先生に師事し、良導絡治療を教わりながら、医療人として必要な心構えを授かりました。現在、東洋医学の診断法の四診(望診・聞診・問診・切診)に、良導絡の診断治療法を併用し、日々の臨床に役立てております。
本書は、来日した外国人から「日本をもっと知りたい」「気のことを知りたい」と問われ、小生の行っている良導絡治療を教え始めたのがきっかけで、1984年から14年の間、19か国50余名の外国人に良導絡治療を教え、その都度資料として作成した「良導絡の基礎」「各疾患の西洋医学的・東洋医学的論述」「臨床例」などの草稿をもとに、訂正加筆したものです。今、良導絡は世界に向かつてその輸を広げ、世界各地の医療関係者から、日本の医学として関心を集めております。近年では、1991年11月にイタリアで、また1993年10月には、ポルトガルで良導絡学会の発足があり、私もこれらに出席し、1996年11月にブラジル、1997年9月メキシコへと相次いで良導絡治療の大いなる効力を喧伝して参りました。この良導絡による自律神経調整療法は、とくに自律神経にかかわる疾患に著効を示すことが判明していましたが、今日の医療事情に鑑みて、この理論と療法の実際を、ぜひ多くの治療家の諸氏に知っていただき、良導絡治療法確立の原点から再出発すべきものと考え、浅学を顧みず本書を世に問う決意を致しました。
良導絡は、東洋医学的思想と近代的西洋医学理論を組みあわせた、理想的治療法であるといえます。橋は反対側に行くだけでなく両側を往き来するためのもので、書名の副題を「二つの世界の架け橋(Bridging Two Worlds)」としましたのもこのような理由からです。良導絡治療はおもに電気鍼を主体にしておりますが、この効果的な物理療法を多くの先生方が理解され、日常の治療のなかに取り入れられ、疾病に悩む多くの人びとを救うことができればとの願いがあります。出版にあたり、日本良導絡自律神経学会会長 武重千冬先生、日本良導絡自律神経学会東日本支部会長 三澤真寿門先生、日本鍼灸良導絡医学会会長 森川和宥先生に序文をいただき心から感謝の意を捧げます。また、絶えず激励くださいました日本鍼灸良導絡学会東京支部 廣田秀男先生、鍼友の竹之内三志先生、和田 哲先生、校正にご協力いただいた日本鍼灸良導絡学会東京支部副会長 成川洋寿先生、良導絡の情報を快くお与えくださった良導絡研究所所長 越智信之氏、煩わしさを厭わず手伝ってくれたChris McAlister, Nic Kyriacou,写真家EverretBrown の各氏に感謝申し上げるとともに、師である大礒泰啓先生のご霊前に捧げます。
1999年5月
後藤公哉
鍼灸の治療に良導絡を加味して研究して来られた後藤公哉先生が、このたび「良導絡療法-基礎と臨床」なる一書を刊行されました。これは鍼灸という東洋医学を修められた先生が臨床にあたって、どちらかといえば西洋医学的な診断法である良導絡に注目し、東西医学の併用による治療指針となるのが本書であり、そのサブタイトルが「Bridging Two Worlds」となっているのもそのためであると思われます。たとえば、医師が鍼灸治療を行いたいとき、問題とされるのは「どの疾患に、どこへ鍼や灸を行えばよいか」ということであり、これには鍼灸医学の知識を必要とするものです。
中谷博士の提唱された良導絡は、皮膚にある低電位抵抗部を良導点と名づけ、つぎつぎとこれに連なる良導点を結んで良導絡となし、この値の異常から病変を知り、さらにそれに対する治療点(施鍼)も知ることができるという一大発見であります。この方法は、西洋医学を習得したが、東洋医学にはまだ充分習熟していない医師や、外国人にとって、客観的な指標が与えられる点で、甚だ有用であります。また鍼灸医学に精通した鍼灸師にとっても、西洋医学との接点となり、かつ従来の治療の適否に客観的な指標が与えられるので有効であると思われます。したがって、本法は東洋医学と西洋医学のかけ橋となるものであり、このかけ橋のための懇切な解説が後藤先生の研究によって成し遂げられたことになります。ここに本書を推薦し、治療家諸賢に普及されんことを強く願うものであります。
(昭和大学学長・日本良導絡自律神経学会会長)
武重千冬
物を書くということは大変なことであります。まして、一冊の学術書として纏めることは並大抵のことではありません。このたび、後藤公哉先生は、何十年間もの研究を、初心者から経験者まで、皆が読んで直ぐ診断から治療に移れるよう、解り易く、順序よく書かれた「二つの世界の架け橋(Bridging Two Worlds)」という副題の付いた良導絡の本を出版されました。今や、良導絡は日本独特の診断・治療法であるにも拘わらず、却って日本より外国の医師たちにRYODORAKUとして親しまれ、鍼の国中国でさえも、この良導絡を盛んに研究し、診断と治療に利用している状況であります。
後藤公哉先生は、国内は勿論、諸外国にも招かれ、良導絡の特別講義をして来ておられます。イタリアではローマ、ポルトガルのリスボン、ブラジルのサンパウロ、メキシコなどの各大学、医師会などで長時間にわたり講義と実技を指導され、その経験の深さ、論理の正確さを以てよくぞ、このように解り易く、しかも適確に指導されてこられたものと、改めて敬意を表する次第です。私も幾度となくご一緒させて貰い、先生の講義ぶりを見聞する機会を得ましたが、その探求心の旺盛さには感服させられたことでした。
これほどまでに研讃を重ねられたからには、是非、一冊の学術書として発刊しなくては勿体ないと常日頃、私自身感じておりましたが、今回、その発刊を知り、吾が意を得た感が致した次第です。諸先生方も、この書を大いに活用され、多くの悩める患者さんの診断・治療に当たられることを念願致します。
(北米良導絡研究所客員教授・日本良導絡自律神経学会東日本支部会長)
三澤真寿門
中谷義雄先生が良導絡を世に出して約50年の歳月が経ちましたが、先生は、東洋医学とくに経絡・経穴の科学的立証を目指しておられたと思います。そのなかで、近代医学の一端を担う新しい良導絡を発見され、刺激生理学を基調とした理論および電気通電を基調とした直流電気鍼による効果大なる臨床理論をつくり上げられました。この新しい治療法は、日本の鍼灸の概念を変え、経絡の気血運行を自律神経の機能として捉えており、その理論体系は古典理論が難解と思わしめた西洋医学者にも理解しやすく、大阪医科大学麻酔科の兵頭正義先生が西洋医学系の病院にはじめて取り入れた訳で、その臨床効果はすばらしく、いつしか世界に羽ばたいたのであります。
近年、物を持ち歩くことを嫌う風潮があり、つい、手軽な治療に走る傾向がみられますが、科学的に数値的に生体を把握し、毫鍼より千分のーのエネルギーの刺激が可能で速効性のある直流電気鍼では、器具が必要ではありますが、患者さんの苦痛をよりはやく取り除くには良導絡治療が最適であります。その良導絡も日進月歩し、基調としている自律神経の研究、究明が進んでおり、その理論は良導絡にも取り入れられるべきであります。また、臨床面ではアナログからデジタルへと変換し、より信頼される治療へと向かいつつあり、近代医学の一端を担うにふさわしい資質を備えようとしています。
反面、良導絡の参考資料がまだまだ欠如している折、後藤先生が長年の良導絡治療を積み重ねてこられた成果が出版されることは、まことに喜ばしいかぎりです。とくに、臨床経験に裏打ちされたカルテや良導絡チャートにもとづく解説、中医理論に根ざす臨床的解説が科学的な論理体系のなかに組み入れられていくことはたいへん意義深いことと思います。新しい時代を担う治療法のーつとして、速効性のある直流電気鍼の活用が、この本によってさらに生かされることを願っております。
(日本鍼灸良導絡医学会会長)
森川和宥
はじめに
序文
I 良導絡//基礎
II 良導絡//症例