中谷義雄先生の、復刻版「最新良導絡の臨床の実際」は長年復刻を待ち焦がれていた貴重な書籍の一つです。ハリ治療に専従する先生には必携の書籍といえましょう。良導絡の概念をを知ることで、ハリ治療とヒトの自律神経の反応をとらえることができます。しっかりした理念の軸に基礎をおいて治療に専従するための礎になる名著といえます。
医療法人社団 医経会 武蔵野病院院長
東京医科大学名誉教授
日本良導絡自律神経学会会長
伊藤樹史
良導絡自律神経調整療法は、良導絡を介して自律神経を調整する治療法でありますが、良導絡というのは内臓に病気がありますと体表(皮膚)に特定の電気の通り易いスジの様な連絡の系統ができます。このように電気の導かれる連絡の系統という意味で、この良導絡の形態が3000年前に中国に於て発見された経絡という形態に、ほとんど瓜二つといっても過言ではありません。それで、良導絡の研究は針灸の科学的裏付とか、証明といわれていますが、針灸療法を、そのまま裏付けたものではなく、異なった面から研究していったものが、結論的に同じ所に達して、針灸の古典は経験臨床的に体表の交感神経の機能を観察し、私は皮膚通電抵抗を介して、同ーの体表の交感神経の機能を観察したわけで、同ーのものを異った立場から研究したことになります。従ってよく似た現象が現われることは当然でありますが、ある程度異った結果のでる事も当然であります。
良導絡の先祖は経絡ではなく体表の交感神経の機能ということになります。それは人間の祖先が猿ではないということと同じであり、人間の祖先と猿の祖先が同じということであります。針灸は、あらゆる面に於て、主観的なものが多く、良導絡は客観的に数的にこれを把握しております。これが科学の根本であります。科学に立脚してこそ医学ということになります。如何に単に良く効くからといっても、科学的でないと将来の発展が、のぞめません。私は針灸そのものを発展させようとは考えておりません。針灸を科学化した良導絡を医学として近代医学の中で発展させようと考えています。
東西医学を比較してみた場合、東洋医学は2000~3000年以前の医学であり、顕微鏡の発見されていなかった時代であります。従って細菌を知らなかったわけでありますが、流行性の伝染性疾患は疫病としてとらえて知っていたようであります。又その当時の法律によって中国では人体の解剖が禁止されていたために解剖学が、あまりにも幼稚であった。そのため基礎学も幼稚であり、従って理論展開の中に大きな弱点を作ってしまいました。しかし長い臨床的経験や外界からの種々の観察によって生理学的な面に於てはかなり綜合的な考え方をもち、人体を小宇宙と考え哲学的ではありますが、大極的に重要なポイントを正確につかまえていたといえます。
経絡現象を脈診によって知り、針灸刺激や薬物を用いて調整していたわけですが、自律神経の作用が解明されている現在、これらの神経が如何に重大なる意義をもっているか理解されるはずであります。この様な大長訓をもってはいますが、外科学や細菌性疾患では東洋医学では弱点もあり、東西医学何れにも長短所のあることがわかります。近代医学は微にいり細にいり分析的にはかなりすぐれた研究もあり、長足の進歩をとげてきておりますが、東洋医学は2000~3000年前のものが、理論は別として、そのまま臨床に用いて、近代医学でも治せないものが治せるといった経験の集積といった長所をもっています。しかし、その後理論面、基礎的研究は全く進歩せず今日に至り、良導絡の研究をのぞいては経穴経絡といった基本的なものも、ほとんど解明されていません。
近代医学では、治療といえば薬物というように薬物に重点が置かれていますが、東洋医学では湯液と針灸が車の両輪の様に同等に重視されてきたのであります。私は良導絡を理学療法として発展させ、針灸医学の精神(いわんとしているところのもの)を科学的な立場から検討を加え新しい分野の研究から、おしちぢめてゆき、理学療法の基礎にしたいと考えています。私は霊枢の中に“針は単なる先のとがった針金にすぎないが、これは人を活かす活人の針であり矛や盾が如何に進んだとしても、所詮、人を殺す殺人道具にすぎない。ここに尊卑きわまる”という文を読んで感銘を受けました。如何に科学が進んでも、哲学的な医者の良心、倫理をわきまえていなければ、心臓手術の様に人間をモルモット化するような行為を起してしまいます。人工心臓をもっと研究するか、動物実験で、もっと危険性のないところまで実験が行われてから、とりくむべきで如何にも功をいそいだという感じがもたれます。長年の経験・歴史をもった針灸を科学化し、理論づけられたことは東西医学の対立ではなく近代医学の中での融合であります。針灸は科学化されて良導絡となり近代医学の中で、より発展させるべきであります。患者はそれをのぞんでいます。もう針灸を頭から迷信視する医師は、あまりにも勉強不足であるといえる時代がきました。新しい理学療法の発見の為に私は今後も頑張りたいと考えています。
1973年2月27日
良導絡研究所長
中谷義雄
第一章 良導絡の基礎編
①良導絡自律神経調整療法とは(自律神経の作用)
②皮膚通電抵抗と良導絡(分極について)
③良導絡の形態
④良導点と良導絡の興奮性
1) 良導点, 反応良導点の興奮性
2) 良導絡の興奮性
⑤良導絡測定カルテ
⑥生理的範囲の求め方
⑦良導絡の興抑と症状
⑧良導絡の不問診
⑨良導絡を調整するには興奮点・抑制点
⑩刺激について
⑪刺激量について
⑫刺激の与え方
1)電気針
2)電気針の雀啄
3)電気針の刺入の方向及び深さ
4)針の副作用
5)刺激の配合
6)刺激の間隔
第三章 良導絡臨床編
私1973年発行、中谷義雄医学博士の名著、「最新良導絡の臨床の実際」を復刻することができました。日本の医師によって、東洋医学でいう処の経絡が科学的に理論化されたものであり、統合医療で注目される貴重な書籍です。この本を復刻するに当たり、良導絡自律神経学会の会長伊藤樹史先生、副会長後藤公哉先生、森川和宥先生、橋口修先生、桑原俊之先生等諸先生、並びに、故成川洋寿先生にご指導いただきました。また、ご協力いただいた良導絡研究所の長友大樹氏等、諸氏の方々に深く感謝申し上げます。
平成22年3月吉日
株式会社環健出版社 代表取締役
佐藤公彦