- 小田博久 著
- (首都医校)
- 浪速社
序文
中谷義雄博士の良導絡の発見は、鍼灸の世界に、強烈なショックを与えました.近代医学をもって古典的鍼灸をふるいにかけ、それを現代にマッチするよう脱皮させた・・・。そんな表現が良導絡にはピッタリかと思います。しかし革命は、それが飛躍しているほど、呼ぶ嵐は強いものとなり、大山が鳴動します。中谷先生は、実はそれでもうんと遠慮していたのですが、古典派からは“インチキ” “鍼灸の冒涜”と、さんざん叩かれました。一方、“いわゆる近代医学者”からはろくに相手にされず、自ら選んだとはいえ、苦難の道を突っ走った末、54才で夭折されてしまいました。しかし、このように生まれた良導絡は、まだ未完なのですが、非常に多くの人々の間で広まり、それが伝承されて、今でもおなじようにさかえております。海外などではとくに、これから流行しそうな風潮が見られます。
このような時期に、鍼灸界の俊才、小田博久氏が良導絡について本を書かれました。彼は中谷先生の直接の門下生ではありません。むしろ鳥取大学におられ、アウトサイダーとして冷徹に、良導絡の1つ1つに、科学的究明を試みておられました.そしてその結果は論文として発表され、そのつど注目を浴びておりました。そういった実績を通じてまとめられたこの本は、単なる中谷良導絡の紹介のみに止まってはおりません。第3者の、“実験的裏付けによる良導絡解説書”であります。著者はまた最近とても分かり易い漢方の本「漢方処方の手引き」も発刊されております。東洋医学の蘊蓄にかけてわが国のトップレベルの1人です。こういった目を通しての本書は、当然いままでになかったユニークな良導絡の本となりました。良導絡治療を行なっている臨床家はもちろん、良導絡とはなにか、関心のある方々にとって、これは絶好の手引書となることでしょう。
昭和63年4月
良導絡自律神経学会会長・大阪医科大学教授
兵頭正義
序文
中谷義雄先生は、鍼灸術の良き理解者であった。良導絡自律神経調整療法はもっと普及して良い療法である。なぜならば、良導絡自律神経調整療法は鍼灸そのものではないが、東西医学の接点でもあるからである。鍼灸家はもっと権利の拡大を求めなければならない。これは私の持論であるが、血液検査なども将来獲得するべき対象になろうかと思う。鍼灸家はもっと経済的にも恵まれてよいはずである。鍼灸術は国民の福祉のためにあるが、もうすこし鍼灸家が恵まれた環境にあつてもよさそうにも思える。
良導絡自律神経調整療法は、鍼灸家にとって一つの有力な武器である。患者が治り、鍼灸家が適当な報酬を得るうえでも良導絡自律神経調整療法は有用な療法である。中谷義雄先生が亡くなられてから、良導絡自律神経調整療法の目新しい新たな発展はあまりないことは事実である。しかし本書のように科学として記述された書物が出版されることは、ひとえに小田博久君の努力のたまものである。巻末の小田君の研究リストを見ても中谷義雄先生が生きておられたらと感無量である。
小田君は良導絡自律神経調整療法を頭から疑ってかかって、研究している。もっと妥協してくれたら良い。とくに臨床と基礎とは違うのだということを言いたいのだが、学問と臨床とは違うのだと一蹴されたしだいである。本書がまじめに良導絡自律神経調整療法と取り組む人々の新たな指針となり、良導絡自律神経調整療法を知る座右の書となると思います。
鍼灸良導絡医学会会長
関西鍼灸短期大学教授
和田清吉
はじめに
私が鍼灸の道に入るようになったのは母の助言による。母はテレビで故中谷義雄博士のみごとな技を見て、これからはこのような刺激療法がもっと認められるようになると直感したらしい。母の弟、つまり私の伯父は医学部でステロイド化学の教鞭をとっているが伝統的な鍼灸術に興味があり、これをもっとわかりやすくできないものだろうかとよく私に話しをしていたことも一因であった。鍼灸を勉強しはじめると色々と興味深いことも多く、それまで漢方薬にむいていた興味の対象が、刺激療法になるのにそれほど時聞はかからなかった。漢方薬を忘れたわけではないが、いまでは低周波通電刺激を含めた鍼刺激療法に大半の時間をさいている毎日である。
本手引き書で述べる良導絡自律神経調整療法は、中谷義雄氏の提唱されたものをさらに詳しく発展させる過程にあるものである。私を含めて、現在多数のハリに興味を抱いている人たちは、先人である中谷義雄氏がいなかったら、鍼灸に着目しなかったのではないかと考えられる点もないことはない。しかし、ある意味では良導絡自律神経調整療法は、すでに既成の療法のように考えられてしまい、短所のみを指摘する者もある. たしかに良導絡自律神経調整療法には改良するべき点は多々あるのであって、こういうところが科学としての学問の良いところであろう.中谷義雄氏が創めた良導絡自律神経調整療法であるが、1940年代の科学水準は今日の基準からすると改めるべきところやいまだに良くわからないところもある。これは科学の宿命であろう。今後とも改めるべきととろは改めて、より良いものに改良してゆくべきである.
本療法は刺激療法の判定に用いられるのみではなく、その他の療法の指針にもなりうるのであるが、あまりにも直流電気鍼施術が効果を示したために、良導絡自律神経調整療法といえば直流電気鍼という風潮が形成されつつある。良導絡自律神経調整療法は一種の診断指針であることを指摘しておきたい。さらにまた、鍼灸術は固定された古い固定された技術のように考えられ勝である。しかし、絶対に変貌してはいけないことはないのであって、根本的なところさえ大事にしておけば、新しい考え方も必要であると考える。日本独自の鍼管ができた際には、これは伝統を打ち破るものであった。将来、良導絡自律神経調整療法が鍼管と同じような取り扱いをうけるかどうかは、良導絡自律神経調整療法を固定したものとして扱うかどうかによって決まるであろうと思う。良導絡自律神経調整療法を研究するにあたっては、鳥取大学麻酔学教室において、佐藤暢教授の御指導と、山内教宏救急部長、上村浩一医局長をはじめとする教室員の方々の御助言を受けたことを感謝いたします.
1988年4月
小田博久
目 次
- 良導絡の発見
- 良導絡自律神経調整療法
- 代表測定点の測定
- 良導絡自律神経調整療法用カルテ
- 反応良導点施術
- 自律神経調整鍼
- 良導絡専用カルテの成り立ち
- 良導絡カルテからわかること
- 良導絡自律神経調整療法の実際
- 良導絡自律神経調整療法といわゆる鍼術との相違
- ヒト皮膚の電気的測定
- 細抱の電気的性質
- 定電流ツボ探索装置
- 電気良導点(良導点、反応良導点)
- ツボの大きさ
- 刺激療法
- 反応良導点が存在する位置の意味
- 中枢における体性感覚系
- 良導絡自律神経調整療法の臨床
- 索引