自律神経失調症の臨床

  • 自律神経失調症の臨床
    -良導絡自律神経調整療法の立場から-
  • 今井 力 著
    (今井医院/院長)
  • 科学新聞社出版局

本書の原稿を渡され自律神経失調症を研究対象にしている事で、これはただならぬ事であると思った。しかし、考えてみると著者の医学に対する情熱と研究に立ち向かうときの真摯な態度を知っているものとして、どんなものが出来上がっているか、大いに期待するところであった。自律神経失調症の定義については、現在でも色々の立場から論じられているのは、衆知のところである。それにしても大変なテーマに取組まれたものだ。しかし日常の臨床では、誰でもが最も困っている、大きな問題に違いない。今井博士が、大学の研究室で脳波の研究から、循環器病をスコープにして疾病を見ているうち、次第に焦点をこの問題にあてある考えに達したのは当然の帰結であると思う。京都大学中谷先生の創案による東洋医学的思想に裏打ちされ最も近代的理学治療として良導絡理論にこれをもとめ、多年にわたって、自分なりの考えを組立て、確信をもち、根気よく日常の臨床で実践されたものをまとめられたのは良い選択であった。
すなわち内容を一読すると、いわゆる自律神経失調症として多愁訴症候群を取り上げ、これを、科学的立場から、良導絡グラフを用い、数的に表し、治療もこれに従うことを提案している。これに加えるに温泉治療と丹田呼吸治療法、食養生法を取り上げ、自律神経の調整に努めている。ここで多くの治験例を提案して、いわゆる近代的なカイロプラクティックの正しさを示している。さらに良導絡を解説し、交感神経が興奮すると皮膚の通電抵抗が低下する生理的原理を応用して、内臓に異常があればその接近した皮膚上に反応良導点が現われる。この点を治療点として従来の針や灸を用いることを良導絡法中心に置いている。このようにして、良導点を結び、旧来の経絡のパターンと相似したものが現われるが、この系の興奮性を調べ経絡の興と抑を調整する方法に進む。このようにして局所と全体の調整を行なうことをもって良導絡自律神経調整法を成立させようと一貫して論述している。
次第に著者の立場が明確になってゆくにつれて、私自身としては、東。洋医学に対しその難解さを理由として深く勉強しようとしなかった事がふだんだん恥ずかしくさえなってきた。本書はそれほどに、読んでいくうちに著者のゆったりとした、あせらず、一歩一歩つみあげてゆく独特の持ち味が、随所ににじみでていることに感服するのである。そして、知らず知らずのうちに、読了してしまったのがいつわざるとれころである。一読して著者の主張するところの自律神経失調症の大部分が、理解でき安堵し充実感をもつようになったのは不思議である。これは恐らく著者の学識の深さと周到な準備によるものと思う。大学の研究室から一貫して第一線の臨床医学者として、多年に旦る研績の跡がそのままにえがかれたものといっても過言ではない。今井博士の研究と生活がいよいよ充実されんことを願うのは私一人ではあるまい。
終わりにこの方面の研究が本書をきっかけにして、さらに大きな前進をされることを希望してやまない。著者にとっては、大学におられた頃からの宿題であった自律神経失調についての一つの区切りができた事を友人の一人として喜びを分かち合える事を光栄とするものである。本書が広く臨床医学に受け入れられて、啓発する事を大であると思う。
一方では、良導絡自律神経学に興味をもっ同学の仲間が一人でも多くなる事を期待して筆をおく。

1992.4.28
労働福祉事業団千葉労災病院長・千葉大学名誉教授
渡豊昌平

推薦の言葉

この度、「良導絡自律神経調整法の立場から」を主体とした「自律神経失調症の臨床」と題する単行本が、今井力先生の力筆によって科学新聞社から出版されました。序文にもあるように、“自律神経失調症”という言葉は便利だから、一般の人もわれわれも、なにげなく今使っておりますが、誠に漠然とした病気というか症候群というか、つかまえどころのない概念であります。そのくせ、こういった疾患は非常にポピュラーであるため、何とか対処しなければ、“
明日の診療”にも差し支える現状であります。嬉しい事に、この本は、スパリ良導絡の立場から正面切ってこの難解な自律神経失調症に迫ろうというもので、これは正に良導絡治療の本質であり正攻法であります。今井先生は、多くの方々がそうであったように、やはりかつて本人が体調を崩され、自分の健康回復をかねて“この道”に入られたようであります。しかし御気性が物事の真髄までつっこまなければ承服されないいわゆる俊才肌なのでありましょう。勉強を始められてからすぐに後輩を指導する力を体得されました。そして良導絡の奥儀を極め、その本質を見抜いてこのように立派な本まで出版されるようになったわけでありまして、誠に偉とするに足りる壮挙といえましょう。
内容は第1章、第2章でまず自律神経失調症の現代的概念を紹介し、第3章からは良導絡自律神経調整療法の解説をその歴史からとき起こされております。この章だけでも読んで分かり易く、良導絡の入門テキストとしても絶好であります。また勉強して明日から診療に役立てられるよう、要点を図解して解説してあり、診療室の座右の書として用いるのにも役立ちます。第4章以下は良導絡以外の方法による自律神経失調症に有効な治療方法の紹介で、カイロプラクティック、坐禅、気功療法、温泉療法、はては食餌療法まで、その概略が解説されております。“不定愁訴で困っている方々の燈台として、方向を知る助け”に役立つ事でありましょう。カイロプラクティックは日本でもうひとつの感がありますが、かなり詳しく記述されてあり、そのあらましを知るのに役立つ事でしょう。また坐禅は、今井先生がイタリアの支部発会記念講演会で、みなさんにデモンストレーションされておりましたが、バラバラの良導絡チャートがきれいに整うそうで、今井先生自身が3ヵ月間で、難治性の不整脈をこれで克服されたそうであります。そして今井ピルの船掘クリニックでは内科診療に加えて食養生などがそれぞれの専門科によって行なわれ、西洋医学と東洋医学一体のすばらしい治療体系が出来上がっているそうです。
以上本書の推薦と合わせて、この機会に良導洛のますますの普及を願い、あわせて今井先生の御発展と御健康を祈念するものであります。

平成4年4月
良導絡自律神経学会会長・大阪医科大学教授
兵頭正義

自序

自律神経失調症という言葉は一般の人も、われわれ医師もなにげなく使っているが、さてつきつめて考えてみると、一体どういう病気のことをいうのであろうか。われわれ医師の立場からみると各種の近代的臨床検査をしても何も異常がないが、患者本人の苦痛がとれない時の逃げ場として、この病名を使用していないだろうか。患者の方も病名がやっとついて、なんのことやらわからないが、一安心した。という実状なのである。現時点において本症の考え方、および治療方法を整理して、それに良導絡やカイロプラクティックの考えを加え、少し大胆であるが私なりの定義を加えてみた。読者の批判に大いに期待し、少しでもこの方面の知見が増えるように願ってやまない。
筆者は千葉大学で学んだものであるが、この大学は昔から東洋医学研究の伝統があり、当時の第一生理学教室の鈴木教授、眼科の伊藤教授、経絡の長浜博士、漢方の藤平博士等がさかんに研究されていた。眼科には今でも東洋医学研究室があり、皆熱心に勉強しているO
筆者は第二生理学教室の福田教授に特に目をかけていただき、人体生理の研究の面白さ、研究方法を教えていただいた。クロード・ベルナールの実験医学序説をひいて、文献にたよることなく実験によって事実をたしかめ、そして考えることの大切さを繰り返し説かれた。卒業して第二内科に御世話になっても、思師の、故人になられた田坂教授、松本助教授、また長尾、渡辺博士(後に千葉大学教授)にあたたかい御指導を頂きながら、脳波とか、筋電図、心電図など生理学的な手法で研究することを学んだ。その後病院に勤め、また開業してからもこの手法をたゆまず実践してきた。
この間にあって、京都大学の中谷義雄先生の創案された良導絡理論に遭遇、この理論は東洋医学的思想に裏うちされた最も近代的な理学治療理論であって、大変魅力のある学説であったので、昭和51年に日本良導絡自律神経学会の会員となった。そして臨床研究を続ける中に、東日本の支部の事務局をひきうける事になり、いそがしい日々を送った。本部の事務局長の小川常雄氏から特に良導絡のテキストを編集する様要請され、できたのが第三章の良導絡自律神経調整療法で、兵頭会長はじめ会員の方々の御指導と努力の成果をまとめであるので、この章単独でテキストとして用いられるよう工夫した。筆者は良導絡理論に基づいた良導絡グラフによって一定の規準をもうけ、自律神経失調症の診断と治療を行ってみた。また頚椎症は多彩な自律神経症状を示すので特に重要で、この場合カイロプラクティックの知識は大変参考になるので第四章として独立してまとめておいた。また、丹田呼吸は筆者の研究によると良導絡グラフに良い影響があり、特に坐禅は心の問題に関連して大事な事なので第五章にまとめた。気候温泉療法は新鮮な空気と温泉効果および転地等の効果があり、自律神経失調には特に良いと考えている。
最後に食餌は毎日とるもので、肉体を形造る元であるから、その成分は極めて重要である。ここでは自然食を重視し、血液を酸性にする肉食等は制限することをすすめた。これらの治療法はすべてお互いに補いながら併用したり取捨選択する必要があろうが、賢明な読者諸氏にまかせたい。すがるすべもなく放り出されて困っている人々がすこしでも少なくなるよう祈る次第である。

伊豆高原山荘にて筆者

目 次

第一章 概論

第二章 自律神経失調症
A.自律調節の生理

    (イ)自律神経系

    (口)内分泌系

    (ハ)免疫系

    (二)各種の自律調節

B.自律神経失調症の概念

    (イ)現代医学的考察

    (口)良導絡理論導入による考察

第三章 良導絡自律神経調整療法
A.良導絡測定法

    (イ)沿革

    (口)良導絡のあらまし

    (ハ)良導絡とは

    (二)良導絡理論

        i.皮膚通電抵抗について

        ii.内臓皮膚反射について

        iii.生体膜の構造

        iv.自律神経

        v.良導点

    (ホ)良導絡を理解するに必要な解剖と生理

    (へ)良導絡で分かる事

    (卜)良導絡記録の実際

    (チ)良導絡専用カルテの読み方

    (リ)コンピューターによる測定の利点

B.良導絡治療法

    (イ)総説

        i.全良導絡調整治療

        ii.反応良導点治療

        iii.針刺入の方法

        iv.針刺入の方向と深さ

        vi.刺激の強さ

        vii.刺激量

        viii.禁忌と注意

    (口)各論

        i.基本点治療

        ii.主要治療点の探索法

        iii.疾患別治療点

        iv.各良導絡有効治療

    (ハ)応用編

        i.低周波置針通電法

        ii.円皮針通電療法

        iii.井穴刺絡

        iv.眼針法

        v.頭針療法

        vi.新しい頭針療法

        vii.耳針療法

        viii.皮内針法

        ix.銀粒貼布または磁石貼布療法

    (二)各種疾患に対する臨床の実際

        i.消化器疾患

        ii.呼吸器疾患

        iii.内分泌疾患

        iv.代謝-栄養障害

        v.結合組織病(膠原病)

        vi.アレルギー性疾患

        vii.循環器疾患

        viii.神経筋疾患

        ix.痛みと良導絡
        x.泌尿器科疾患

        xi.運動器疾患

        xii.女性性器疾患

        xiii.産科疾患

        xiv.皮膚疾患

        xv.精神科疾患

        xvi.眼科疾患

        xvii.耳鼻科疾患

        xviii.癌

        xix.小児針の種類と手法

        xx.救急法

第四章 カイロプラクティック
    i.頸椎症とカイロプラクティック

    ii.アトラス・オーソゴナル治療法

第五章 自律神経失調症の治療
A.現代医学的治療法

B.東洋医学的治療法

    (イ)漢方

    (口)灸療法

    (ハ)大極拳

    (二)気功療法

C.丹田呼吸法(坐禅)

    (イ)坐禅

    (口)調和呼吸道

D.温泉気候療法

    (イ)ドイツ

        i.バート ナウハイム
        ii.バートリプシュプリンゲ

        iii.バートエィンハウゼン

        iv.バートネルンドルフ

        v.バーデンバーデン

        vi.バーデンバイラー

        vii.バートノイエナールアールバイラー

        viii.まとめ

    (口)チェコスロバキア

        i.マリアンスカラズネ

        ii.カルロビイバリー

    (ハ)アメリカ

    (二)日本の温泉

        i.鹿教湯温泉

        ii.伊豆韮山温泉

        iii.沢渡温泉病院

        iv.伊東温泉

        v.湯河原温泉

        vi.熱海温泉

        vii.日本温泉協会資料による主要温泉病院の紹介

E.食餌療法

結語

船堀クリニック

文献

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