鍼灸は三千年の歴史を持っていますが、あらゆる面において主観的で複雑です。良導絡は客観的で科学的な根拠に立脚した新しい治療法を展開しています。今の社会が望んでいる医学だと言えます。昭和25年に創始者である故中谷義雄博士によって発見され、鍼灸医学の領域に科学的なEBMを導入し発展させてきました。その後は良線絡を研究する一門によって良導絡自律神経学会を設立し今日まで発展してきました。良導絡は皮膚の交感神経の反応点と機能を観察し、各臓器と関連する形態を見いだし、良導絡の系統的な理論体系と併せ治療法を構築してきました。
日常の生体は自律神経のネットワークによってバランスを保っています。交感神経の反応は、行動に向かつて体を準備する方向に働き、副交感神経は体を休養させる方向に働いている。脳内では末梢と違って、両神経の聞には厳密な区別はみられません。生体に病変、異常が生じますと自律神経の活動も乱れを生じます。不定愁訴に始まり体調の変化を生じ、情動の変化、記憶にまで変化を生じ、恒常性維持力が脆弱になってしまいます。自分の力で回復できない状態が自律神経失調ということになります。自律神経機能検査法は数十種類ありますが、いずれも単一臓器別であるため、全身の自律神経機能やバランスを総合的に評価できるものではありません。容易に臨床の治療に反映できる検査ではなく非臨床的といえます。薬物による自律神経系の治療も困難で効果もはっきりせず副作用も心配されます。全身の交感神経と副交感神経の皮膚への分布は交感神経系がはっきりしています。そこで皮膚から求めた24個所の良導反応点の計測結果は全身の交感神経の活動としてとらえて診断します。医療の臨床でも交感神経と副交感神経の両面の自律神経反応を観察し評価する方法はありません。血圧が168/88で脈拍が48の場合はどのように評価するのでしょうか。血圧が168/88は交感神経の緊張と捉え降圧薬を考える。脈拍が48では副交感神経の緊張と考える。いずれも片面の評価しかできません。不思議にも生体は片面からの治療でも両面のバランスが改善するような仕組みになっています。
このように、良導絡は経絡のみでなく、体表の交感神経の機能の評価と治療までおこなうことができます。今世紀が生み出したストレス社会の中で最も期待される治療法ということになります。良導絡は鍼灸の科学化とコンピュータ統計的な処理によって、生体のゆがみとして生じているツボも含め自律神経のバランスを測定し、診断から治療までの一体化を確立した科学的治療方法です。この治療効果は”点”から”面”さらには”立体的”な治療へと展開します。免疫現象というミクロな世界にまで生体は反応します。良導絡は皮膚表面に散在する交感神経のスイッチをON、OFFにする効果があり、この作用は隠れている副交感神経のバランスを引き出すように作用し、生体反応は恒常性に向かいます。生体を深く探るほどその仕組みは複雑で見えなくなりますが、このメカニズムの理解は日常の臨床から十分会得することができます。生体の複雑な反応に挑む科学手法としての良導絡治療は今後も躍進し発展を遂げるものと確信しています。論語にあるように「学則不固」は学べば学ぶほど奥が深いということです。患者の反応を見ながら治療している私たちは理屈抜きで楽しく治療を行っています。皆さんは、まず基礎編からしっかりと研鑽されることを希望いたします。
東京医科大学/名誉教授(麻酔科)
日本良導絡自律神経学会/会長
伊藤樹史
まえがき
中谷義雄博士略歴
中谷義雄博士語録
第1章 良導絡の基礎理論
1.神経の機能分類
1)伝達方向からみた神経分類
(1)遠心性神経
(2)求心性神経
2)自律神経
(1)交感神経
(2)副交感神経
2.自律神経
1)自律神経の概要
2)自律神経系の化学的伝達と受容体
3)良導絡自律神経調整療法と関係のある自律神経反射
4)自律神経の作用と良導絡療法の作用機序
3.西洋医学から捉える良導絡
1)西洋医学検査
2)西洋医学検査で異常が出なかった場合
3)良導絡は西洋医学なのか東洋医学なのか
(1)診断と証の違い
(2)ECG (心電図)の場合
(3)良導絡測定の場合
4)良導絡測定の特徴
(1)良導絡カルテ
(2)症候群表
5)診断と評価(アセスメント)・事前評価
6)自律神経カルテ
第2章 良導絡自律神経調整療法の理論
1.良導絡自律神経調整療法
2.皮膚通電抵抗について
(皮膚電気抵抗)
(皮膚電気抵抗のメカニズム)
1)皮膚電気抵抗の発生部位
2)皮膚交感神経系
3)良導絡測定結果にタイムラグがある理由
(交感神経と皮膚通電抵抗)
3.良導絡の基礎研究
1)良導点とは
2)反応良導点とは
3)良導絡
(1)定義
(2)良導絡の名称
(3)良導点の名称
(4)良導絡の形態(良導絡図)
(5)良導絡支絡
(6)良導絡と経絡の相違点
(7)良導絡の興奮性
(8)代表測定点の実験
(9)カルテの作成過程
4.電気鍼について
(直流電気鍼)
1)直流電気鍼とは
2)直流電気鍼の治療方法
3)直流電気鍼を施すと身体内でどのような変化が起きるか
4)直流電気鍼での電圧・電流・通電時間
5)直流電気鍼の電気は身体のどこを流れるか
6)パルス通電と直流電気の違い
5.良導絡自律神経調整療法の治効機転
1)一般作用と特殊作用
2)内臓-皮膚反射、内臓-腹壁反射
3)体表-体表反射
4)まとめ
6.良導絡治療の特徴
1)全良導絡測定の結果
2)反応良導点
3)治療の面
第3章 良導絡測定
1.ノイロメーターについて
1)構造
2)使用法
2.良導絡測定の実際
1)良導絡測定法
(1)測定導子の準備
(2)ノイロメーターのセットの方法
(3)特殊な場合のセット法
(4)全良導絡測定の実際
(5)代表測定点の部位
〈H良導絡の測定法〉
〈F良導絡の測定法〉
(6)測定時の注意事項
(7)カルテの記入法
3.良導絡カルテ
1)生理的範囲と異常良導絡の求め方
(1)異常良導絡とは
(2)生理的範囲とは
(3)生理的範囲の求め方
(4)異常良導絡の求め方
(5)興奮点・抑制点に印をつける
3)まとめ
4.カルテの見方
1)平均電流量
2)生理的範囲との関係
3)良導絡症候群
4)良導絡興奮性パターン
(1)基本的パターン
(2)応用パターン
5)患者への説明
(1)異常良導絡
(2)患者への説明
(3)不問診
第4章 良導絡自律神経調整療法
1.良導絡治療(良導絡自律神経調整療法)とは
1)全良導絡調整療法
2)反応良導点治療
2.全良導絡調整療法治療
1)全良導絡調整療法における調整
(1)興抑調整
①興抑調整方法
②刺激の方法
(2)基本調整
①基本調整方法
2)基本(調整)治療点と運用の仕方
(1)全良導絡調整療法の調整方法
①施灸による調整
②刺鍼による調整
③EAP(Electrical Acupuncture)による調整
④圧粒子による調整
3.反応良導点治療
1)反応良導点治療の実際
2)反応良導点の求め方
(1)探索法
(2)探索の仕方
(3)探索上の注意
3)反応良導点の処方
(1)反応良導点の種類
a.患部反応良導点
b.反対側反応良導点
c.誘導反応良導点
d.背腰部反応良導点
e.胸腹部反応良導点
f.特効的反応良導点
4)その他の治療点
5)反応良導点刺激の方法
4.刺激について
1)刺激の定義
2)刺激の種類
5.刺激の方法
1)ノイロメトリーからみる刺激方法
2)鍼の響きと刺激効果
3)刺激の強弱
4)優れた刺激の条件
第5章 治療各論
1.症状別反応良導点
2.疾患別反応良導点
第6章 良導絡治療における注意事項
1.治療における禁忌と非適応疾患
1)一般禁忌部位
2)禁忌症
3)禁忌
4)非適応疾患
2.消毒について
3.一般的注意事項
1)基本的な注意事項
2)治療前の注意事項
3)治療中の注意事項
4)治療後の注意事項
第7章 良導絡治療用機器と使用法
1.自律神経調整鍼
1)自律神経調整針の歴史
2)自律神経調整針の構造
3)針管の準備
4)使用法
(1)一般的な方法
(2)置針法
2.デイスポ型針管鍼
1)デイスポ型針管鍼の特徴
2)デイスポ型針管鍼の準備
3)デイスポ型針管鍼を使った刺入と通電
4)デイスポ型針管鍼を使用した(通電)治療における注意事項
(1)強い切皮による刺入深度に注意
(2)通電する場合には測定導子を接触させ陰極で通電を行う
(3)通電する場合には、必ずインフォームド・コンセントをおこなう
3.現在販売されている良導絡関連商品
1)ノイロシステムビジョン(良導絡研究所)
(1)機能
2)その他の良導絡関連商品
(1)自律神経調整針管(FR鍼管)「良導絡研究所」
(2)デイスポ型針管鍼「大宝医科工業(株)」
(3)ロイヤルエイト「良導絡研究所」
(4)IW-ZEN「良導絡研究所」
(5)ノイロソフター(DSー209)「良導絡研究所」
(6)ノイロソフター(DSー208S)「良導絡研究所」
(7)ノイロシステムビジョン「良導絡研究所」
(8)CENT(セント)(600-GS)「良導絡研究所」
(9)ハリマックス「良導絡研究所」
(10)ノイロメーター解析ソフト(NAS)「クチコナ」
4.ノイロメーターの故障の見つけ方
1)メーターの針が充分に振れない
2)全く針が振れない
3)針は振れるが、フラフラと安定しない場合
第8章 良導絡Q&A(What is Ryodoraku?)
1.良導絡Q&A
第9章 良導絡図・良導点
1.良導絡図
2.良導点一覧
3.良導点番号索引
編集後記
参考文献
良導絡機器に関する問い合わせ先
2006年につくば市でWHOの経穴部位標準化公式会議が開催され、経穴の部位決定がなされました。その結果を受けて東洋療法学校協会と日本理療科教員連盟は教科書編纂委員会を立ち上げ、2010年に経穴学の教科書として「新版
経絡経穴概論」が発行され、骨度法の寸度の変更、部位の変更、経穴の表記の変更がおこなわれました。また、その教科書のなかには、経絡の概念と現代科学的研究のなかで、経穴現象の電気的特徴として「皮膚の電気特性を利用して、経穴部位と関連を見つける試みがなされている。中谷義雄が提唱した良導絡、良導点、石川太刀雄が提唱した皮電点はともに皮膚通電抵抗が低下する現象が交感神経を介した反応により出現するもので、経絡経穴の現代科学的な解釈として用いられているが、客観的証明には至っていない。」と紹介されています。
本学会の教科書でもある「良導絡自律神経調整療法 基礎編」は1993年に第1版が発行されまもなく19年になりますが、これまで6回にわたり小さな改訂がされてきました。 そこで今回は、時代の変化に伴って、良導絡の基礎理論の解説、直流電気鍼とは、良導絡自律神経調整療法の治癒機転、良導絡治療の特徴などを充実させました。さらに良導絡測定器の進歩により、販売されなくなった機器を使った説明を、実際に販売されている機器を使った説明に変え、また、新たにディスポ型針管鍼の使用方法、刺入方法、通電・刺激方法などについて写真なども加えてやさしく解りやすい解説を加えました。
また、経穴部位の改訂も含めて経穴の表記方法を検討し、新しい経穴学を学んだものにもわかり易くするために新しい経穴名も併記することになりました。 さらに、本の大きさもA4判に変更し、ぺ一ジ数も約3割とかなり増加させ、初心者にもよりわかり易すいように順序を工夫し、今回の大きな改訂となった次第です。
最後に今回の改訂においてご尽力賜った編集委員の先生に対して深く感謝致します。
吉備 登
ここに学術部では“良導絡治療基礎講座のテキスドを改訂し、時代に沿った新しい内容を盛り込んで『良導絡自律神経調整療法《基礎編》』として新たに発刊することになりました。1993年4月に初版を発刊し、以降6回の改訂を行ってきましたが、今回は内容の追加、校正を行い、より分かりやすいテキストとして、多くの良導絡治療を行う同志に活用していただくことに重点をおいて、第7版を発刊することになりました。
特に「良導絡基礎理論」を加える必要をかねがね考えていましたが、なぜに良導絡測定は西洋医学検査が確立した現在も支持されるのかについて、また自律神経の必要最低限の知識を各先生方の協力でまとめてみました。これを伊藤樹史会長に確認していただき、「自律神経カルテ」を毎回活用するようにご指導いただきました。このテキストが役立つことを願っております。
編集を重ねて更に内容を充実できるよう今後も検討をすすめたいとおもます。また編集にあたりご協力いただいた、伊藤樹史会長、基礎編編集委員会の福地 孝、後藤公哉、森川和宥、小田博久、加藤信也、橋口 修、各先生がたと吉備登副会長、武内哲郎編集部長に対して感謝の意を表します。
2012年4月 学術部長 桑原俊之
参考文献
編集委員長
桑原俊之(学術部長)
編集委員
後藤公哉(副会長)・吉備 登(副会長)・武内哲郎(編集部長)・遠藤 宏(総務部長)・内田輝和(広報部長)・森川和宥(測定アドバイザー委員長)・北村 智(常任理事)
発行
日本良導絡自律神経学会 学術部
〒590-0482 大阪府泉南郡熊取町若葉2丁目11番1号
関西医療大学内
改訂歴
1993年 4月1日 第1版第1刷発行 ・ 1995年 10月1日 第2版発行 ・ 1999年 9月9日 第3版発行 ・ 2002年 3月1日 第4版発行 ・ 2005年 3月1日 第5版発行 ・ 2008年 4月1日 第6版発行 ・ 2012年 4月10日 第7版発行
印刷
図書出版浪速社 〒540-0037 大阪市中央区内平野町2-2-7 電話:06-6942-5032, FAX: 06-6943-1346 ※本書を無断で複写することは著作権法で禁止されていまず。
このたび同門の中谷義雄博士が各方面からの要望に応えて、「良導絡自律神経調整療法」を上梓することになった。中谷君が「皮膚通電抵抗の疾病による変化」という構想を胸中に温めて、京都大学医学部生埋学教室笹川久吾先生の門を敲いたのは昭和27年1月のことである。以来20星霜、その間孜々として学理と臨床に研績を積んで良導点・良導絡の命名から、その部位における通電抵抗値と疾病との関係を系統づけ、此の関係の根本原因は自律神経系のリズムとアンバランスにあることを探りあて、ついで原理に基づいて疾病治療に有効な皮膚部位の探求、該部位における治療法という順に歩を進めて来ている。中谷君の此の研究によって古典伝承的であった東洋医学の治療術式が近代科学の脚光を浴びることになって、斯界の人々によりどころを与えたに止まらず、改めて東洋医術が独立した歩を進めることが出来るようになった。中谷君は長年月にわたる研究の途上、良導絡治療の説明のため、あるいは新しい知見の報告のため数種の書物を出版しているが、良導絡による治療法が一般医家に浸透して広〈用いられるようになり、かつ専門医師による学会も結成され年毎に数多の研究成果が発表されるに及んで、此の治療法に関する中谷博士の決定版ともいうべき書物が大方の人々から強く要望されるようになったのも当然のなりゆきである。中谷君が研究に臨床に寧日のない忙しい時聞をさいて本書を作られたわけも此の強い要求があったからで、良導絡に関するすべてのものを盛り込むことに努力されたため600頁余の大部のものになっている。
本書は次の6章より成り立っている。
第1章では良導絡治療法の概要がのべられていて、新しく此の療法をはじめる人でもこの章をマスターすればまずまずこと足りるものがあり、既に該療法を実用している人にとっては此の章は各自の行っている療法に新しい知識を加えるよすがになり得るものである。第2章は良導絡に関する基礎的な研究事項である。ここをみると、ただ漫然と右へならえ式に治療法を実施しているだけでは不充分で、より有効適切な治療を目ざすために是非知っておくべき事項であることがわかる。第3章は著者の所で長年月実施して来た良導絡治療法をまとめて、治療の実際に当って知得しておくべき事項がのべられている。従って第2章と第3章は良導絡治療法を自家の薬籠中のものとするためには是非必要なものであるといえる。第4章は治療の実際に当って手技の修熟に必要なことを更にこまかく且つ平易に説明するために多数の図表で解説、臨床実習編としてまとめたものである。以上の4つの章で治療方法を知悉し、且つこれを実施し充分に活用し得ることが出来るわけであるが、更に2つの章がつけ加えられている。第5章は著者が出演し視聴率を高めたテレビの後記やその他良導絡に関する記録がおさめられていて、著者の活躍をしのぶことが出来る。第6章は良導絡研究参考編として多くの頁をさいて良導絡に関係のある参考事項をもうらしている。今日のように良導絡治療法が医家に広〈聞いられるようになり、各地に研究会が出来ている現状では此の章が著者の姿勢を示すつまり本書の真骨頂であろうとさえ考えられるものである。本書の頁数に匹敵する多数の図表も特長的なもので読者の理解を高めるのに役立つものである。本書が多くの人々によって実地に活用され、治病に寄与し社会福祉に貢献することを願うものである。
昭和46年7月(京都大学にて)
京都大学教授
医学博士 田村喜弘
明治時代、西洋医学を医療の正統とするために、議会に於て、東洋医学の廃止が議決せられたが、針灸の効果あることは、何人も、これを否定し得ず、そのために、今日まで、針灸専門学校が存続しているのであります。昭和25年、中谷義雄博士は、東洋医学研究中、良導点・良導絡を発見して、良導絡研究所を創設、たまたま、東洋医学の研究が行われていた京都大学医学部生理学教室に於て、笹川久吾教授の下に、「皮膚通電抵抗と良導絡」研究によって、学位を受領せられたので、あります。引つづき、昭和35年には、良導絡学会を創設して、爾来、良導絡診療所を経営し乍ら、休日を利用して、全国の医師会にはたらきかけて、今日まで、300回以上の講習会を開催せられて来たことは、全く、常人の企て及ばざる偉業であります。
今回、中谷義雄博士が、「良導絡自律神経調整療法Jの題名の下に、待望の著書を刊行せられたことは、東洋医学にとっては、もとより、広く日本の医学界の将来のために、最も有益なる著書と確信致します。博士は、この著書に於て、長年の治療経験を基にして、作成せられたカードを利用して、その診療にあて、調整療法の特に適した疾怠として50種類を挙げて居りますが、神経痛に於ける特効に於ては、幾多の初心者も経験する所であります。
色盲患児の色覚向上に就ては、既に国際学校保健学会に於て、二回も報告せられ、又、スポーツ医学の分野に於ても、去る東京オリンピックに於ける体操の小野 喬選手を始め、幾多の治験例が報告せられて居ります。最近、大阪医科大学、ペイン・クリニック・兵頭教授を中心として、各地の病院のペイン・クリニックにも、採用せられて居ります。東南アジア各国にも、徐々に利用せられつつある状態であります。中谷博士は、易学を基礎とする東洋医学の長所に就て研究して、西洋医学の医学思想と比較するなど、両者を極めて21世紀の医学建設に資することは、我々の責務ではないでしょうか?
この意味に於ても、中谷博士の新著の有意義なることを力説したいのであります。中谷博士は、尚春秋に富み、日夜良導絡治療の研究と、実践に努力せられている現状に鑑み、漸次、真剣な同志諸君と結ばれ乍ら、該治療の完成が何日の時にか到来することを祈念して、新著推薦の辞といたします。
昭和46年7月
日本良導給自律神経学会会長
医学博士 野津 謙
中谷博士が今回、20年にわたる良導絡の研究、および体得された治療知見を1冊の本にまとめられた。これは氏の良導絡総決算であるが、同時に後学の士にとって願ってもない入門書であり、かつ辞典でもある。中谷博士は多くの才に恵まれている。独創的な思考力がなければ良導絡は生まれなかったであろうし、また人1倍の実行力と根気がなければ、それを今日ほど広く普及させることもできなかったであろう。さらに万人に尊敬される人がら、加えて庶民的なパーソナリティを持ち合わせなかったら、この島国的日本で多くの人の共感を得ることはできなかったに違いない。
周知のように氏は話術の才にもたけている。えてしてこのような人は文筆を苦手とするものであるが、過去における厖大な論文の数は、学者に要求される筆力も合わせ持っている何よりの証拠である。昭和31年、中谷氏は「皮膚刺激療法jと題する単行本を今回と同じ良導絡研究所から出版された。この本はそれまでの数年間の業績をまとめたものであり、良導絡理論が確立されるに至る研究の集積である。これは同時に、氏の博士論文でもあった。したがって書体は「学問的」であり、臨床の実際についての指導書ではなかった。絶版になって久しいが、実技を習得すれば誰でも基礎理論の詳細を知りたくなる。この本の復刊が期待されていたが、その後の新知見もあり、かつ理論だけでは一般書として弱く懸案になっていた。
このたびの本は、臨床に重点があるとはいえ、かっての本で紹介された基礎理論の要点をより吟味した形で、ほとんど余さず集録している。当然大冊になるが、これだけのボリウムは必要最低限であり、大冊としての価値は十分にある。近年、東洋医学の再認識は世界的な機運にある。ただ、旧式の兵器は、どんなにそれをうまく使いこなしても、新兵器の登場によって破れ去る。古典東洋医学はそれなりの価値があるが、進歩と改良がなされねばやがては滅び去る。過去3000年にわたる古典東洋医宇は、中谷・笹川らによる良導絡理論によって、今や近代科学としての裏づけを持ち、新しい刺激物理療法として現在の医療の一分野に位置づけされた。もちろん、なお検討さるべき問題はあまりにも多く残されている。個人でできる研究範囲は知れている。これからは世界の学者によって錬り直されねばならないが、そのためにも本書は、なくてはならない土台石である。
昭和46年7月20日
大阪医科大学麻酔科教授
医学博士 兵頭正義
昭和25年4月2日に腎炎の患者さんで腎良導絡を発見して以来20年をこえてしまいました。その間、研究と臨床に良導絡だけのことを考えてきました。出来上ってしまえば簡単なことではありますが、研究中は何が出来上るのか、どうすれば良いのか、コロンブスが大洋の中に舟を進めて、これからどうなるのか、はたしてインドが見つかるか、それと同じ気持であったと思います。幸にして現在では臨床的にも非常に役立ち近代医学の盲点をうずめるに足ると自負できるような新しい理学療法にまで発展して参りました。本書の内容は、ほとんど私が研究したものでありますが、針灸の古典を参考にした為に急速な速度で研究が進んだことは、うたがう余地もありません。これは温故知新であり、古いものには案外良いところがあり、新しいものには案外欠点があるという格言も参考にしなければなりません。古医学には哲学があります。針は単なる針にすぎないが如何に矛や盾が進んだものができようとも、針は人を活かす活人の針であり、矛は人を殺す道具である。そこに尊卑、自らきわまると述べています。
人を活かす針の研究ができることは幸福であると思います。昭和19年頃より針灸の勉強を始めたわけですが、その当時は針灸をとり入れて行う医師は、ほとんどおらず、要するに変人だということになります。別に先見の明があったわけではありませんが、唯自分の興味のある道を選んだわけであります。これは復古調といいますか、いつの聞にか東洋医学のブームが起り、ニクソン大統領の中国訪門によって針ブームが、米国や日本を更に刺激して良導絡は日本から、東南アジア、ヨーロyパ、そして米国にまで広がって行くようになりました。これは一重に良導絡自律神総学会や良導絡に好意をよせて下さる諸先輩のひきたてであって、昭和48年5月13日より米国に於て、ワシン卜ン大学に於ける国際ペインシンポジウムに於ける良導絡治療及びその成績の発表(佐藤教授と中谷)その外、カリフォルニア大学麻酔科主催に於ける講演会(佐藤、山下、中谷)、ニュヨーク大学リハビリテーション臨床部門に於ける講演会、及びハワイ、サンフランシスコ、ロスアンゼルス、ダモイ、デトロイド、シカゴ等に於ける医師会の講習会、カナダのバンクーバの講習会等と、昭和48年は米国への進出の年となりました。
この本は昭和46年9月3日に第1版2000冊、出版されて48年2月には、もう数冊を残して売り止となり、今までの誤りを正して、第2版を出版することになりました。良導絡の研究や臨床には;無くてはならない本となり良導絡の大事典の役割をはたすことになります。データーも約5000例のものを唯今カード選別機によって整理されつつあります。新しい研究は学会の雑誌に報告致します。又この本の内容を変えなければならなくなる日が一日も速く来ることを願っております。
昭和1973年6月30日
日本良導絡自律神総学会副会長
日本針灸良導絡医学会名誉会長
中谷義雄
*第二版改定にあたり、良導絡研究所員大塚晋策君に熟読してもらって、誤字・脱字等意味の通じ鰍い点等を改正しました。
私の医療従事者としてのスタートは、臨床検査技師として病院に勤務したことでした。エコー検査などの検査で患者さんの悪いところを見つけなければならないと悪戦苦闘の毎日でした。また、当直も多く、ストレスで急性糸球体腎炎になり入院したことがあります。危うく人工透析になる寸前でした。その前段階で疲労やめまいがありましたが、その時点では異常値としては出ることがありませんでした。自分が臨床検査技師なのに「人工透析になるす前までわからないとは」と、自分の仕事に自信が持てず、患者さんに申し訳なく思っていました。たとえば、心筋梗塞とか脳卒中などの疾患は、検査で異常値と出た時点で重篤な結果になることがあります。検査で異常値が出ないから安心とは限らないわけです。糸球体腎炎で入院中にベッドの中で一日中、検査値に出にくい不定愁訴を捉えるにはどうしたら良いかと考えていました。その時に外科の先生が見舞いに来て、「君が好きそうな本じゃないかと思い、持ってきてあげたよ」と、褐色の汚れた「医事新報」という本を手渡されました。その本の中身は、今までの私の概念を打ち破るような内容でした。今まで悩んでいたことが一気に解決できるような気がしました。それには、中谷義雄先生が「良導絡自律神経」という理論を書いておられました。「経絡」という鍼灸の概念について西洋医学を熟知した日本の医師が、「自律神経」という概念で説明していたのです。この時に、私が次に何をすべきか方向が定まりました。西洋医学の検査で異常がないけれども、苦しんでいる患者さんが多くいる。この患者さんへ応えていきたいという努力が始まったのです。
自分自身、自律神経失調症に苦しんだこともあります。そのときの経験からアロマテラピーも取り入れました。その中で、良導絡治療の効果も体験しました。また、良導絡治療を学ぶうちに他にいろいろな治療法も見えてきました。多くのセラピストと出合ううちに良導絡の重要性を痛感するようになりました。今後インターネットなどの情報世界が進む中で患者さんの医療に対する意識は大きく変わってきています。統合医学が進む中で我々は他のセラピスト達のフレームワーク(概念)を学ぶ事も必要となってくるでしょう。しかし、その弊害もある事を学び、患者さんに説明する事も大切な役割となるでしょう。伝統医学やその他のセラピストたちの最終的治癒効果は?と聞くと、その多くは自律神経の安定にあると答えています。この事は中谷先生が、以前から言い続けてきたことであり良導絡の基本的概念です。今後、東洋医学をはじめ、あらゆるジャンルのセラピストを目指す人達は良導絡理論を学ぶ事も必要となるでしょう。統合医療といわれ、患者さんを全身で診る医療が今後多くなります。良導絡概念は東洋医学が行う西洋医学的アプローチとして重要な役割を持っていると確信しています。
平成21年8月吉日
橋口 修
はじめに
第1章 「体の調子が悪い」がわかる
第2章 良導絡と自律神経失調症
第3章 良導絡で自律神経失調症を調整する!
第4章 アロマテラピーで心と体をケアする
第5章 体質を変える漢方療法と食事
第6章 その他の東洋医学で自律神経を整える
「良導絡療法-基礎と臨床-」
たにぐち書店刊
後藤公哉先生 著
定価:11,000円(税込)
※会員の方は2023年10月22日(日)まで割引購入可
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良導絡は1950年(昭和25年)、故中谷義雄先生が皮膚通電抵抗を主体とし考案された日本独自の診断・治療法であります。中谷先生は、京都大学医学部生理学教室で人体の皮膚電気抵抗の変化は局所及び内臓疾患の反射と関連のあることを突き止められ、これが、自律神経の興奮性の変化に依拠するものであり、この反応による皮膚の通電抵抗の減弱点に、電気鍼や種々の物理的刺激によって自然良能を高めることを多くの実験で証明し、良導絡理論を確立されたのであります。私は、中谷先生の第一の継承者であった故大礒泰啓先生に師事し、良導絡治療を教わりながら、医療人として必要な心構えを授かりました。現在、東洋医学の診断法の四診(望診・聞診・問診・切診)に、良導絡の診断治療法を併用し、日々の臨床に役立てております。
本書は、来日した外国人から「日本をもっと知りたい」「気のことを知りたい」と問われ、小生の行っている良導絡治療を教え始めたのがきっかけで、1984年から14年の間、19か国50余名の外国人に良導絡治療を教え、その都度資料として作成した「良導絡の基礎」「各疾患の西洋医学的・東洋医学的論述」「臨床例」などの草稿をもとに、訂正加筆したものです。今、良導絡は世界に向かつてその輸を広げ、世界各地の医療関係者から、日本の医学として関心を集めております。近年では、1991年11月にイタリアで、また1993年10月には、ポルトガルで良導絡学会の発足があり、私もこれらに出席し、1996年11月にブラジル、1997年9月メキシコへと相次いで良導絡治療の大いなる効力を喧伝して参りました。この良導絡による自律神経調整療法は、とくに自律神経にかかわる疾患に著効を示すことが判明していましたが、今日の医療事情に鑑みて、この理論と療法の実際を、ぜひ多くの治療家の諸氏に知っていただき、良導絡治療法確立の原点から再出発すべきものと考え、浅学を顧みず本書を世に問う決意を致しました。
良導絡は、東洋医学的思想と近代的西洋医学理論を組みあわせた、理想的治療法であるといえます。橋は反対側に行くだけでなく両側を往き来するためのもので、書名の副題を「二つの世界の架け橋(Bridging Two Worlds)」としましたのもこのような理由からです。良導絡治療はおもに電気鍼を主体にしておりますが、この効果的な物理療法を多くの先生方が理解され、日常の治療のなかに取り入れられ、疾病に悩む多くの人びとを救うことができればとの願いがあります。出版にあたり、日本良導絡自律神経学会会長 武重千冬先生、日本良導絡自律神経学会東日本支部会長 三澤真寿門先生、日本鍼灸良導絡医学会会長 森川和宥先生に序文をいただき心から感謝の意を捧げます。また、絶えず激励くださいました日本鍼灸良導絡学会東京支部 廣田秀男先生、鍼友の竹之内三志先生、和田 哲先生、校正にご協力いただいた日本鍼灸良導絡学会東京支部副会長 成川洋寿先生、良導絡の情報を快くお与えくださった良導絡研究所所長 越智信之氏、煩わしさを厭わず手伝ってくれたChris McAlister, Nic Kyriacou,写真家EverretBrown の各氏に感謝申し上げるとともに、師である大礒泰啓先生のご霊前に捧げます。
1999年5月
後藤公哉
鍼灸の治療に良導絡を加味して研究して来られた後藤公哉先生が、このたび「良導絡療法-基礎と臨床」なる一書を刊行されました。これは鍼灸という東洋医学を修められた先生が臨床にあたって、どちらかといえば西洋医学的な診断法である良導絡に注目し、東西医学の併用による治療指針となるのが本書であり、そのサブタイトルが「Bridging Two Worlds」となっているのもそのためであると思われます。たとえば、医師が鍼灸治療を行いたいとき、問題とされるのは「どの疾患に、どこへ鍼や灸を行えばよいか」ということであり、これには鍼灸医学の知識を必要とするものです。
中谷博士の提唱された良導絡は、皮膚にある低電位抵抗部を良導点と名づけ、つぎつぎとこれに連なる良導点を結んで良導絡となし、この値の異常から病変を知り、さらにそれに対する治療点(施鍼)も知ることができるという一大発見であります。この方法は、西洋医学を習得したが、東洋医学にはまだ充分習熟していない医師や、外国人にとって、客観的な指標が与えられる点で、甚だ有用であります。また鍼灸医学に精通した鍼灸師にとっても、西洋医学との接点となり、かつ従来の治療の適否に客観的な指標が与えられるので有効であると思われます。したがって、本法は東洋医学と西洋医学のかけ橋となるものであり、このかけ橋のための懇切な解説が後藤先生の研究によって成し遂げられたことになります。ここに本書を推薦し、治療家諸賢に普及されんことを強く願うものであります。
(昭和大学学長・日本良導絡自律神経学会会長)
武重千冬
物を書くということは大変なことであります。まして、一冊の学術書として纏めることは並大抵のことではありません。このたび、後藤公哉先生は、何十年間もの研究を、初心者から経験者まで、皆が読んで直ぐ診断から治療に移れるよう、解り易く、順序よく書かれた「二つの世界の架け橋(Bridging Two Worlds)」という副題の付いた良導絡の本を出版されました。今や、良導絡は日本独特の診断・治療法であるにも拘わらず、却って日本より外国の医師たちにRYODORAKUとして親しまれ、鍼の国中国でさえも、この良導絡を盛んに研究し、診断と治療に利用している状況であります。
後藤公哉先生は、国内は勿論、諸外国にも招かれ、良導絡の特別講義をして来ておられます。イタリアではローマ、ポルトガルのリスボン、ブラジルのサンパウロ、メキシコなどの各大学、医師会などで長時間にわたり講義と実技を指導され、その経験の深さ、論理の正確さを以てよくぞ、このように解り易く、しかも適確に指導されてこられたものと、改めて敬意を表する次第です。私も幾度となくご一緒させて貰い、先生の講義ぶりを見聞する機会を得ましたが、その探求心の旺盛さには感服させられたことでした。
これほどまでに研讃を重ねられたからには、是非、一冊の学術書として発刊しなくては勿体ないと常日頃、私自身感じておりましたが、今回、その発刊を知り、吾が意を得た感が致した次第です。諸先生方も、この書を大いに活用され、多くの悩める患者さんの診断・治療に当たられることを念願致します。
(北米良導絡研究所客員教授・日本良導絡自律神経学会東日本支部会長)
三澤真寿門
中谷義雄先生が良導絡を世に出して約50年の歳月が経ちましたが、先生は、東洋医学とくに経絡・経穴の科学的立証を目指しておられたと思います。そのなかで、近代医学の一端を担う新しい良導絡を発見され、刺激生理学を基調とした理論および電気通電を基調とした直流電気鍼による効果大なる臨床理論をつくり上げられました。この新しい治療法は、日本の鍼灸の概念を変え、経絡の気血運行を自律神経の機能として捉えており、その理論体系は古典理論が難解と思わしめた西洋医学者にも理解しやすく、大阪医科大学麻酔科の兵頭正義先生が西洋医学系の病院にはじめて取り入れた訳で、その臨床効果はすばらしく、いつしか世界に羽ばたいたのであります。
近年、物を持ち歩くことを嫌う風潮があり、つい、手軽な治療に走る傾向がみられますが、科学的に数値的に生体を把握し、毫鍼より千分のーのエネルギーの刺激が可能で速効性のある直流電気鍼では、器具が必要ではありますが、患者さんの苦痛をよりはやく取り除くには良導絡治療が最適であります。その良導絡も日進月歩し、基調としている自律神経の研究、究明が進んでおり、その理論は良導絡にも取り入れられるべきであります。また、臨床面ではアナログからデジタルへと変換し、より信頼される治療へと向かいつつあり、近代医学の一端を担うにふさわしい資質を備えようとしています。
反面、良導絡の参考資料がまだまだ欠如している折、後藤先生が長年の良導絡治療を積み重ねてこられた成果が出版されることは、まことに喜ばしいかぎりです。とくに、臨床経験に裏打ちされたカルテや良導絡チャートにもとづく解説、中医理論に根ざす臨床的解説が科学的な論理体系のなかに組み入れられていくことはたいへん意義深いことと思います。新しい時代を担う治療法のーつとして、速効性のある直流電気鍼の活用が、この本によってさらに生かされることを願っております。
(日本鍼灸良導絡医学会会長)
森川和宥
はじめに
序文
I 良導絡//基礎
II 良導絡//症例